開発編 コラム

この本を「図鑑」で終わらせないために:私がアプリを作り始めた2つの理由

  • 『アプリ開発者向けAIツール大全』Chapter 1より
  • 2026年11月5日版

この先には、90を超えるツールが並びます。ですが、ページをめくる前に、1つだけお願いがあります。

この本を、最初から最後まで読まないでください。

いきなり変なことを言っていると思われたかもしれません。でも、これが本書を一番役立てる読み方です。理由をお話しさせてください。

手段が目的になった瞬間、うまくいかなくなります

アプリを作ることは、何かの問題を解決するための「手段」です。目的ではありません。

「流行っているから」「やらないと時代に取り残されそうだから」——その動機で始めること自体は、まったく悪くありません。私も最初は、その気持ちが混じっていました。

ただ、手段が目的になった瞬間、たいていこうなります。ツールの比較記事を延々と読み、無料枠に片っ端から登録し、何も作らないまま1か月が過ぎる。時間もお金もかけたのに、手元には何も残っていない。

これが、この手の本を「図鑑」として読んだときに起きることです。とても、もったいない。

だから最初に、私がなぜアプリを作り始めたのかをお話しします。大した理由ではありません。でも、大した理由でないことが大事なのです。

理由①:毎月のコストを下げたかった

私は長年、海外のいろいろなソフトウェアにお金を払ってきました。そこに円安が重なって、気づけば相当な金額になっていたのです。

AIが登場する前なら、これは仕方のないことでした。プログラマーを雇って自分専用のツールを作ってもらうより、月額いくらのサブスクを払うほうが、圧倒的に安かったからです。

でも、その前提はもう崩れました。

ChatGPTやClaude、Geminiへの支払いは、今は必要経費だと割り切っています。問題はそれ以外です。私は明らかに、あちこちに課金しすぎていました。

そこで最初に作ったのが、カウントダウンタイマーです。

ウェブサイトに「あと何時間で締め切りです」と表示する、あれです。ECサイトなどで見たことがあると思います。私はこの機能のために、年間1,000ドル——今の為替で15万円ほど——を払っていました。

(ひとつだけ補足させてください。嘘の締め切りを表示するのは絶対にやめてください。 期限を過ぎても同じ条件で買えるのに「今だけ」と表示することは、景品表示法が禁じる「有利誤認表示」にあたるおそれがあります。私が作ったのは、指定した日時を過ぎたら本当に申し込めなくなる、正直なタイマーです。)

Claudeに「こんなアプリを作りたいのですが」と相談するところから始めました。そのためにはどんなサーバーが必要か、といったことも全部AIに教わりながらです。

最初のバージョンは、正直まったく使い物になりませんでした。 思ったとおりに動かない。それを自分で使いながら、ああでもないこうでもないと直していく。すると、だんだん「実際に使えるもの」になっていきました。

そして今、そのタイマーを実際のお客様への販売で使っています。今まで払っていた海外のソフトと同じことができて、しかも自分好みに作ってあるぶん、使い心地はこちらのほうが上です。

そのソフトの契約は、解約しました。年間15万円が、そのまま浮きました。

理由②:自分の作業を楽にしたかった

もう1つは、効率化です。既存のツールが悪いという話ではなく、単純に「これ、時間かかるな」「面倒だな」と感じていた作業がありました。

私は動画をよく作るので、字幕です。

動画編集ソフトで字幕の下書きは作れるのですが、それを自分好みの表記に整える作業に時間がかかっていました。そこで、自分のMacの中だけで動く小さなアプリを作り、GeminiのAPIとつなぎました。

やることは、動画ファイルをそのアプリに渡すだけです。

以前は「動画を書き出す→そこから音声だけを切り出す→アップロードする」という3つの手間が必要でした。それが1つになりました。しかも、あらかじめ指示しておいた書き方のルールどおりに整えてくれるので、質も上がりました。もちろん完璧ではないので最後は自分で目を通しますが、かかる時間は大きく減りました。

ほかにも、カメラをパソコンにつないで画面を確認したり、録画の開始と停止や設定を変えたりできるアプリも作りました。私の場合、撮影と編集まわりの道具が増えています。

どれも、お客様の個人情報を預かるような大掛かりなシステムではありません。 自分のパソコンの中で動く、小さな道具です。

サグラダファミリアではなく、まず犬小屋から

いつか「これで大きな商売をしたい」という夢のアプリを目指すのは、素晴らしいことです。目指すべきだと思います。私自身、今まさに、サイトも作れてメールも送れて会員サイトにもなる、大きなシステムを開発中です。

でも、いきなりそこには行かないでください。

サグラダファミリアを最初の作品にしてはいけません。まずは庭に犬小屋を建てるくらいの、DIYで手が届く規模から始めてください。

そして、もう1つ大事な条件があります。最初の1本は、必ず「自分用」に作ってください。

人からお金をいただいた瞬間、そこには責任が発生します。動かなければ迷惑がかかりますし、個人情報を預かれば守る義務が生まれます。

自分用なら、失敗しても誰も困りません。心置きなく壊せます。だから上達が早いのです。

そして1本作り終えると、何かが変わります。「ああ、こうやって作ればいいのか」という感覚が手に入るのです。それで全部が分かるわけではありません。でも、小さなマイルストーンを1つ越えた、という自信がつきます。 その自信が、次の1本をずいぶん軽くしてくれます。

では、この本をどう使うのか

具体的な3ステップをお伝えします。

ステップ1:あなたが「困っていること」を書き出す。

本書を1ページも読まずにできます。今すぐ紙でもメモアプリでも開いて、こう書き出してみてください。

  • 毎月お金がかかっていること(クレジットカードの明細を開いて、サブスクの一覧を眺めてみてください)
  • 毎日、毎週、決まってかかっている作業時間
  • 面倒くさくて後回しにしていること
  • 「こんな道具があればいいのに」と思ったこと

これがあなたの原材料です。ここが空欄のまま先に進んでも、たぶん何も残りません。

ステップ2:いきなりClaude Codeに行かない。

意外に思われるかもしれませんが、最初に開くのは普通のチャットで構いません。ChatGPTでもClaudeでもGeminiでもいいので、こう聞いてみてください。

「こういうことで困っています。AIを使ってアプリを作れば解決できますか?」

「作るとしたら、どんな道具が必要になりますか?」

「私のような未経験者でも、どのくらいの手間でできそうですか?」

私も最初はこうやって質問しました。作れるのか、何が要るのか、どのくらい大変なのか。 これが分かってから手を動かすほうが、結果的にずっと早く着きます。

ステップ3:そこで初めて、この本を開く。

目的が決まると、疑問が急に具体的になります。「コーディングツールはClaudeとCodexのどちらにするか」「画像が必要だが、どれを使うか」「サーバーはVercelかCloudflareか」「データはどこに置くのか」「お金はどう受け取るのか」。

本書は、そのときに引く辞書です。

各ツールには世間の評判を、要所には私が実際に何を使っているかを書いたコラム「ヒルトルのアプリ開発裏話」を置いてあります。

そして、どの章を開けばいいかの早見表がこちらです。

あなたの悩み・やりたいこと 開く章
とにかく1本、作ってみたい Chapter 2(AIコーディングツール)/Chapter 3(ノーコード)
毎月のサブスク代を減らしたい Chapter 2 →(公開するなら)Chapter 9
自分の作業を自動化したい Chapter 2 / Chapter 4(AIの頭脳)
アプリにAIの機能を入れたい Chapter 4 / Chapter 5(まとめて使う窓口)
画像・動画・音声を作らせたい Chapter 6 / Chapter 7 / Chapter 8
ネット上に公開したい Chapter 9 / Chapter 16(GitHub・ドメイン)
データを保存したい Chapter 10
画像や動画を配信したい Chapter 11
会員だけが使えるようにしたい Chapter 12
お客様からお金を受け取りたい Chapter 13
メールやLINEを送りたい Chapter 14
事故を起こしたくない Chapter 15
結局いくらかかるのか知りたい 巻末の付録(料金表)

最後に

1本作ると、3つのものが手に入ります。新しいスキル。小さな自信。 そして、これは私にとって予想外だったのですが、まわりの反応です。

ネット上で「こんなアプリを作りました」と書くと、思った以上に反応があります。どうやって作ったんですかと聞かれます。作れる人は、まだ少ないのです。

私自身、いまだに素人です。勉強しながら、この本の内容を自分でも見返しながら、次のアプリを作っています。だから、完璧に理解してから始めようとしないでください。 1つ作れば、次が見えます。

最後にもう一度だけ言わせてください。

この本を、最初から最後まで読まないでください。

あなたの悩みを1つ決めて、その悩みに関係する章だけを開いてください。それが、この本の一番正しい使い方です。

それでは、次の章からご一緒しましょう。