本編 コラム
仕事でAIを安全に使うための5つの注意点
仕事でAIを使うときに気をつけたいことは、どのツールでもほとんど同じです。ここでは、2026年11月5日時点で知っておいていただきたい5つの注意点をまとめました。
1つ目は、AIに入力してはいけない情報を決めておくことです。お客様の名前や連絡先などの個人情報、取引先から預かった資料、まだ発表していない情報は、そのままAIに入力しないのが基本です。
パナソニック オペレーショナルエクセレンスは2026年10月23日、人事情報システムを作るプロジェクトのメンバーが、会社で利用を禁止していた外部の生成AIサービスに、約33万4000人分の個人情報をアップロードしていたと発表しました(ITmedia エンタープライズ、2026年10月28日の記事による)。
対象は従業員約7万5000人、元従業員約17万8000人、その家族約8万1000人で、社員番号や住所、電話番号、メールアドレスなどが含まれていました。同社は9月29日に、個人情報保護委員会(個人情報の扱いを監督する国の機関)へ報告しています。
データは発覚の直後に削除されました。ただ、サービス側は削除したデータも30日間保存するため、AIの会社の手元に残らなくなるのは、その期間が過ぎた10月25日以降としています。
この事例から分かるのは、ルールで禁止するだけではAIの勝手な利用は防げないということです。会社が把握していないところで社員がAIを使うことを「シャドーAI」と呼びます。
社員が少ない会社でも、「仕事で使ってよいAIはこれ」「この情報は入れない」を具体的に決めて、全員に伝えておきましょう。使ってよいAIを会社で用意しておくことも、こっそり別のAIを使われないための大事な対策です。
2つ目は、学習に使わせない設定です。多くのチャットボットAIは、設定によっては、あなたとの会話をAIの性能を良くするための「学習」に使います。仕事で使う前に、次の設定を確認しておきましょう(2026年11月5日時点の各社のヘルプページによる)。
- ChatGPT:「設定」→「データコントロール」にある「すべての人のためにモデルを改善する」をオフにします。
- Claude:設定のプライバシーの項目で、会話をモデルの改善に使うかどうかを切り替えられます。
- Gemini:「Gemini アプリ アクティビティ」のページで「アクティビティの保存」をオフにします。
ChatGPTとGeminiにある「一時チャット」は、学習に使われません(安全のための保存は、ChatGPTで最大30日間、Geminiで72時間あります)。
また、OpenAIのヘルプによると、ChatGPTの法人向けプラン(BusinessやEnterpriseなど)の会話は、初めから学習に使われません。
ただし、学習に使わせない設定にしても、入力した内容がAIの会社に送られることは変わりません。設定をしたから個人情報を入れてよい、ということにはなりません。
3つ目は、著作権です。AIで作った文章や画像を、ブログや広告、商品に使うときは注意が必要です。
文化庁のウェブサイトでは、「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月15日)と「AIと著作権に関するチェックリスト&ガイダンス」(2024年7月31日)が公開されています。2026年11月5日時点で、このページにこれより新しい版は出ていません。
ガイダンスでは、著作権の侵害になるのは、すでにある作品と「似ていること(類似性)」と「その作品をもとにしたこと(依拠性)」の両方がそろったとき、と説明しています。
作るだけなら問題にならない場合でも、ネットで公開したり販売したりすると話が変わることが多い、とも書かれています。公開する前に、インターネット検索などで既存の作品と似ていないか確かめましょう。
また、作品のタイトルやキャラクター名をAIへの指示(プロンプト)に入れると、依拠性が認められやすくなるとされています。どんな指示で作ったかを記録して残しておくと安心です。
4つ目は、AI音声詐欺です。AIで本物そっくりの声を作り、家族や上司になりすましてお金を振り込ませる詐欺に注意してください。
ハーバード大学やMetaなどの研究者らが米国の成人4,100人を対象に行った研究(学術誌「Expert Systems with Applications」、2026年)では、AIの声による詐欺電話の要求に、平均16.5%(約6人に1人)が「応じる」または「分からない」と答えました(ITmedia NEWS、2026年10月28日の記事による)。
AIでまねた人の声(クローン音声)で「困っている姉妹」を装い、急ぎの送金を求める設定では、36.1%の人が要求に応じる可能性を示しました。だまされるかどうかを分けたのは、声の人間らしさではなく、話の説得力だったそうです。
ですから、声が本人に聞こえるかどうかではなく、話の中身で判断することが大切です。「急いで振り込んで」と言われたら、いったん電話を切り、いつもの番号にかけ直しましょう。家族や社内で、本人だと確かめるための「合言葉」を決めておくのもお勧めです。
5つ目は、AIエージェント(あなたの代わりにパソコンを操作して作業を進めるAI)への「仕込まれた指示」です。ウェブページやファイルにAI向けの命令をこっそり書いておき、AIを操る攻撃で、「プロンプトインジェクション」と呼ばれます。
2026年10月22日には、セキュリティ企業のForever Securityが、パソコンの「ダウンロード」フォルダに悪意のある指示ファイル(AGENTS.mdなど)を置く手口を自社のブログで公表しました。ウェブサイトによっては、あなたが何もしなくてもこのフォルダにファイルを保存できるためです(ITmedia AI+、2026年10月28日の記事による)。
そこでAIエージェントを動かすと、攻撃者の指示に従って悪いプログラムを入れたり、ログイン情報を外に送ったりするおそれがあるため、同社はダウンロードフォルダでAIエージェントを起動しないよう呼びかけています。
中身を知らないフォルダや初めて見るウェブページでは、AIエージェントを動かさないようにしましょう。AIが「実行してよいですか」と確認してくる設定はオフにせず、メールの送信や支払いの前には必ず人間が中身を確かめてください。
最後に、明日からできることをまとめます。
- 入力:個人情報・顧客情報・未公開の情報は、AIにそのまま入れない
- 設定:使っているAIの「学習に使わせない設定」を確認する
- 公開前:AIで作った文章や画像が、既存の作品と似ていないか検索で確かめる
- 電話:お金の話が出たら、声ではなく中身で判断し、かけ直して確かめる
- エージェント:知らないフォルダで動かさず、送信や支払いの前に人間が確認する